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言葉で人の心を動かす

『雪山と偽善者』

 雪山には不釣り合いな金属片が散らばっている。大きな金属の塊には、有名航空会社の名前が書かれていた。

「この子のお父さんか、お母さんはいますか?」

墜落した飛行機の残骸の中、明石が大声で少女の親を探すために大声で叫ぶ。

「あの……。」

「お母さんですか?」

「いえ、その子の斜め後ろに座っていたものです。その子の両親はあそこの席でした。」

 彼女が指した飛行機の座席はもぎとられるように消えていた。明石が手を握っている少女は寒さで震えていた。

「誰かこの子に毛布を譲ってくれませんか?」

 飛行機に常備されていた毛布は、事故後、意識を取り戻した軽症の人たちが独占していた。

「おい、あんた、諦めな。この状況で人助けなんか期待するのは無理ってもんよ!」

 色黒の長身の男が明石に話しかける。

「誰か、誰か、この子に毛布を!大人なら耐えられますが、子供にこの寒さは命に関わります。今日は天気もいいです。救助もすぐに来ると思います。一枚でいいです。この子に毛布を!」

 叫び続ける明石。

「こんな薄い毛布なら一枚あってもなくても同じだろう?」

 ブルドックみたいな顔をした肥満体形の男が言う。

「そう思うなら、あんたが纏っている薄い毛布をこっちによこせ!」

「さっきからなんなんだよ?あんた、その子の親じゃないんだろ?」

「違うが、俺は大人だ。大人は子供を守るもんだろ?この子には、全身の震え、呼吸も早い。肌も冷たく真っ白だ。間違いなく低体温症になっている。すぐに体を温めなければダメだ!」

「あんた医者か?」

「俺はただのサラリーマンだ!今はそんなことどうでもいいだろ?誰か毛布を貸してくれ!」

 大勢が明石をじっと見ている。しかし、誰も彼に声をかけない。

「なんでだよ?なんで誰もこの子を助けようとしないんだよ?お前らそれでも人間か?」

「偽善者ぶるんじゃねーよ!みんな自分がかわいいに決まってんだろ!」

「俺が偽善者かどうかなんかは、どうでもいいんだよ!あんたらそれでいいのかよ?救助が来て助かったとしても、この子が死んだら、寝覚めが悪くないのか?」

「他人の子なんか知ったこっちゃないね。」

「もういい!お前らには頼らねーよ!」

 明石は寒さで震える少女を背負って、飛行機の残骸と乗客たちに背を向けて歩き出す。

「あんた、どこ行くんだよ?」

「お前らの顔を見たくない。この子と一緒に下山する。」

「お兄さん、冷静になりなさい。山は危険です。遭難するだけです。私たちと、ここで救助を待ちましょう。神は私たちを見放しません。神を信じて待ちましょう。」

 細身の老紳士が明石の下山を止める。

「断る。あなたは神を信じるのかもしれないが、あいにく俺は無神論者なんでね。極限状態の時、人間の本質が分かるというが、これだけ大人がいて、子供を守ろうとする奴が俺しかいないとはな!臓器をくれと言っているわけじゃないんだ。毛布を1枚くれと言っているだけなんだ。そんなに自分が大事か?俺だって自己犠牲は馬鹿だと思うよ?でもな、放っと置けないんだよ!」

 明石は捨て台詞を吐いて、少女を背負ってその場を去る。明石が下山し始めて約1時間後、ゴゴゴっと山を揺らす轟音が響く。雪崩だ。ハッキリは分からないが、飛行機が墜落したあたりだ。飛行機の墜落による衝撃が雪崩を起こしたのかもしれない。幸いなことに、明石たちの方には雪崩はこなかった。

「面白い。これが神のご意志ってやつか?神を信じない俺の方が、神様に好かれているようだ。」

 明石は振り返らず、何事もなかったように少女を背負って山を降りて行く。

 

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・あとがき

 俺はたまにブログで小説を書くことがある。ブログで伝えたいことをストレートに書くと、炎上して面倒くさいことが起きるためだ。小説という形で間接的にでもメッセージが伝わればいいと思い、今回もこれを書いた。

 俺は善人ではない。しかし、悪人でもないと思っている。自分に正直に生きて失敗することは多い、世渡り下手だとは自覚している。それでも、偽善者だと言われようが、嫌われようが、自分に正直に生きようと思う。

 もっと人生上手く生きろと助言されることはよくある。馬鹿正直だと笑われることもある。俺は今の自分を受け入れてくれる人でないと、長い付き合いはできないと思っている。嘘で固めた自分で相手を騙すぐらいなら、全てをさらして嫌われた方がいい。

  正直者は馬鹿を見るというが、いつか報われる日がくると信じている。

 

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