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言葉で人の心を動かす

『クリスマスの夜に彼女と赤いマフラーを』

小説

 昨日はクリスマスだった。生まれて初めてクリスマスにもらった手編みのマフラーは白だった。しかし、今、俺の首に巻かれているいるのは赤いマフラーだ。生まれて初めてできた彼女は若くてかわいい。そして、俺の目の前で微笑んでいる。最悪のクリスマスだ。

 

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 山田澄雄30歳。独身。サラリーマン。現在、彼女なし。クリスマスの夜、仕事が終わっても、クリスマスデートをする相手がいない。今年も、コンビニで焼き肉弁当とビールとビーフジャーキーを買って自宅に帰る。男の一人暮らしの食卓に色鮮やかな野菜が並ぶことはない。ビール片手にコレクションしてある映画の中から、トム・ハンクス主演の『ビッグ』見る。大人になることを夢見た少年が、突然35歳の大人に変身して、恋や仕事を経験して大人の大変さを知る。大人になっても何一ついいことがない。子供の頃に見たこの映画で、大人になれば恋人ができると思っていたことを思い出す。それが独身男・山田の毎年恒例のクリスマスの過ごし方である。

 

 世間がクリスマスで騒いでいる中、山田の会社は休まず営業中だ。定時まで仕事をしなければならない。それが非常に辛い。山田の職場には女性が多い。クリスマスということもあってか、女性たちの唇がいつも以上に赤い。髪形も決めてきている。間違いなく、仕事帰りにデートだ。それもクリスマスデート。個室に数時間籠るのは間違いない。

 

 山田のような独身男にとって、クリスマスにメイクをバッチリ決めた女性たちに囲まれて仕事することは、精神的に辛い。彼女たちには男がいて、夜は色々お楽しみになる。それを考えると、隣の席の女性が真剣な顔で仕事をしていても、彼氏と抱き合っている姿を想像してしまう。職場には既婚女性もいるし、女性上司もいる。彼女たちも今日は早く家に帰るらしい。

 

 「山田君、今日の夜、空いてる?」

 定時の1時間前、細身のスーツが似合う足の長い姉崎課長が山田のそばに寄ってきて、耳元でセクシーな声で甘くささやく。

 

 山田は少し驚きながらも、恐る恐る答える。

「今日ですか?空いていますが……。」

「今夜は返さないぞ♡」

「かわいく言われても困ります。それって、残業ということですよね?」

「女の子は、みんな今日定時で上がるそうなんだけど、急ぎの仕事が残っていてね。お願いできる?」

 そういうと姉崎課長は、満面の笑みで山田に書類の束を渡す。

 

 定時で急ぐように会社を出て行く女性たちを横目に山田は黙って残業に手をつける。会社の女性がみんな帰り、山田と姉崎課長だけが社内に残る。お互いに無言のため、静まり返った社内にキーボードを叩く音と、書類に線を引く音だけが響く。

 

 定時から数時間後、姉崎課長が山田の顔の前にポッキーを差し出す。

「お腹減ったでしょ?ポッキー食べる?」

「ありがとうございます。1本もらいます。」

「遠慮しないでよ。半分持ってきなよ。」

 

 山田は半分抜き取って、バリバリと一気に食べる。

「食べ方が豪快だね。いかにも男という感じ。」

「そうですか?大雑把なだけです。」

「山田君の名字、サンタって読めるよね?」

「読めますね。高校の時のあだ名はサンタでしたよ?毎年、プレゼントを贈る相手のいないサンタだと笑われていました。」

「そうなの?へぇー。でも、今年は贈る相手ができるかもよ?」

 姉崎課長は山田に話かけながら、自分のデスクに戻り、引き出しから何かを取り出し始めた。

 

「課長、何時だと思っているんですか?午後9時ですよ。クリスマスも後3時間で終わりです。奇跡が起きないか限り、後3時間で彼女は作れませんよ。」

「これ、なーんだ?」

 

 山田の目の前に差し出された姉崎課長の手には赤い包装紙で包まれた箱があった。

「えっ、プレゼントですか?僕に?」

「開けてみて。」

 

 山田が箱を開けると、箱の中には、真っ赤な女性ものの下着がキレイに納められていた。

「下着?これ、女性ものの下着ですよ!僕、女装の趣味ないですよ!」

「鈍感だな。君は仕事ができるのに、そういうの疎いよね?」

 きょとんとする山田。

 

 山田の持つセクシランジェリーを取り上げる峰崎課長。

「これは、あなたが私に着せるのよ。私のサンタさん♡」

「あっ、これセクハラですよね?」

「そうだね、君が私を嫌いならセクハラだね。私のこと嫌いかな?」

「課長、いえ、姉崎さん。俺のトナカイになってくれるんですか?」

「サンタさんには逆らえないわ。命令とあれば朝まで私に乗り放題だよ!だって、今日の私はトナカイさんだから。」

「分かりました。トナカイさん。俺から一つお願いがあります。」

「何かな?今日はクリスマスだから、何でも聞いちゃうぞ♡」

「俺、男は愛せないんで、今日のことは聞かなかったことにして帰らせていただきます。」

 

 山田は書類の束を整えて課長のデスクに上げ、逃げるように会社を後にした。これで社内に残る男は姉崎課長一人となった。

 

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 山田は家の近くのコンビニで漫画雑誌とビール、売り切れていた焼き肉弁当の代わりにカップラーメンを籠にいれて、レジ前に立つ。レジ前の20代の女性店員がピッ、ピッとバーコードを読み込んでいく。そのバーコードリーダーを持つ手は、小さく、かわいらしくて、山田の目をくぎ付けにする。

 

「2,202円です。」

 

 山田は我に返って、財布から千円札2枚と五百円玉1枚を取り出す。この時点で、初めてコンビニの女性店員の顔を見たのだが、顔もかわいい。クリスマスの今日、誘われるのなら、男性上司ではなく、彼女が良かった。いつも会社帰りに、このコンビニで買い物をしていたが、こんなにかわいい女の子がいたことに山田は気付いていなかった。

 

 コンビニの女性店員は、山田の右手を左手で下からしっかり支え、右手でかぶせるようにお釣りを渡す。山田は少し驚いた。彼女はいつもこんなにしっかりお釣りを渡してくれなかったからだ。今日はいつもより丁寧だ。

 

「私、シフト午後10時までなんで、後少しでバイト終わります。よければ少しお話できませんか?」  

 毎日のように通っていたコンビニだが、初めてしっかり顔を見たかわいい女の子に、山田は声をかけられたのだ。

 

「えっ、俺ですか?」

「ごめんなさい。いきなりこんなこと言われても困りますよね。山田さん、格好いいし彼女いるに決まっていますよね。」

「いえ、彼女はいませんが……。」

「本当ですか!あの、私、山田さんのこと、いつも見ていて、いいなあと思っていて、できれば、お話ししたいなと思っていて、あの、これからダメですか?私、好みのタイプじゃないですか?あっ、私、何言ってんだろう。いきなり困りますよね。あの、あの……。」

「俺で良ければ。コンビニの前に止めてあるあの車が俺のなんで、車で待っています。」

「ありがとうございます!私、佐藤梨花と言います。仕事終わったら、すぐに行くので待っていてください!」

 

 白い箱を持って、山田の車に乗り込んでくる佐藤。

「失礼します!お待たせしました。」

「そういえば、さっき俺の名前を呼んでいたけど、何で俺の名前知っていたの?」

「この前、取り寄せ商品の代金をここで支払った時に名前を覚えました。」

「もしかして、その時から、俺のことを?」

「恥ずかしいんですけど、半月前からです。きゃっ、言っちゃった。恥ずかしい。」

 両手で顔を隠す佐藤。

 

「ここで話すのもなんだから、スタバでも行く?」

「私の部屋で飲みませんか?」

「えっ?佐藤さんの部屋?」 

「ダメですか?私、クリスマスの準備してあるんです。ケーキもあります。うちの店のあまりですけどね。」

 山田は、白いケーキの箱を山田の前に差し出す佐藤の笑顔と、数十分前に女装癖のある男性上司から誘われたという事実により、若い女性の家にお呼ばれするという非現実的な状況に何の疑問も持たなかった。

 

 山田は浮かれながら佐藤の自宅マンションに向かう。佐藤の部屋に上がり、廊下を抜けると大きなリビングと大型テレビが目に付く。荷物を床に置き、上着を脱いで席に着くと、手際よく佐藤がクリスマス用のディナーを次々と食卓に並べていく。

「コンビニのバイトでこんな立派なマンション借りられるの?」

「このマンションは父がオーナーなんです。私はただで借りています。」

「そうなんだ。」

「そんなことより、クリスマスを楽しみましょうよ。ワイン飲めます?」

「はい。アルコールならなんでも行けます!」

 

 山田は佐藤が出してくれたワインを一口だけ飲む。すぐに物凄い眠気に襲われ、山田は倒れ込んでしまう。倒れ込む山田を笑顔で見つめる佐藤。

 

 山田が目を覚ますと、別の部屋に移動させられ椅子に座らされていた。部屋一面には、山田の写真が大量に貼られている。山田は睡眠薬をもられ、両手足を縛られていた。佐藤はストーカーだった。

 

「佐藤さん、これはどういうこと?」

「ええ?分かんないですか?今日から山田さんは私の彼氏になるんですよ?嬉しいでしょ?幸せでしょ?」

「とりあえず、これほどいてくれないかな?これじゃあ、動けないよ?」

「いいんですよ。私が全部、面倒みますから。山田さんは何もしないでいいんですよ?」

「それは嬉しいんだけど、俺、おしっこに行きたいんで。」

「大丈夫ですよ。私がいますんで。」

「尿瓶とかはちょっと……。」

「そんなもの使いませんよ。病院じゃないんだから。」

「良かった。それじゃあ、これほどいてくれるんだね?」

「やだ~、山田さん冗談ばっかり。」

 

 佐藤は山田のズボンのチャックを下げて、縮こまった男性の象徴をつかんで、自らの口の前に向ける。

「全部、私が飲み干しますんで、遠慮なく!」

 

 山田の背筋に寒気が走る。

 

「どうしたんですか?早く出してくださいよ。口を開け続けると顎が疲れるんですけど?」

「ごめん、嘘言った。今はおしっこしたくないんだ。」

「ふざけるんじゃねーよ!私に嘘ついていいと思ってんのか?これだけ私が愛しているのに、分からないのか!」

 佐藤から笑顔が消え、鬼のような形相と言葉遣いに変わる。それを見た山田の顔から血の気が引く。

 

「ご、ごめん、言い方が悪かった。かわいい女の子に恥ずかしい部分を見られて緊張してしまったんだ。」

 

 鬼のような形相が、満面の笑みに変わる。

「な~んだ。もう、やめてくださいよ。危うく殺しちゃうところでした。」

 

 山田の脇から冷や汗が流れ落ちて脇腹を伝う。喉が渇く。

 

「今日はクリスマスだから、ちゃんとプレゼント用意しているんですよ!ちょっと待っててね。」

 プレゼントを取りに別室へと行く佐藤。

 

「じゃじゃーん!なんと手作りマフラーです!嬉しいでしょ?色も山田さんの好きな白ですよ?」

「俺、白好きじゃないんだけど……。」

「てめえ、ふざけんなよ!前に好きなパンツの色は白とか言ってたろーが!」

「それは下着の話であって……。もしかして盗聴もしているの?」

「当たり前だろ?それより、どうすんだよ。この白いマフラー!」

「白いマフラーも好きだよ?」

「気休めはいらねーんだよ!そうだ。染めよう!赤に染めよう!」

 

 台所に向かって何かを持ってきた佐藤。その手には包丁が握られていた。白いマフラーを山田の首にかける。

「山田さん。この白いマフラーを二人で完成させようね!」

「どういうこと?まさか、その包丁で……」

「初めての共同作業だね!私が編んだマフラーを山田さんの血で真っ赤に染めるの♡」

 

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 12月26日、未明。俺の首には血で染まったマフラーが巻かれている。目の前の佐藤さんは、幸せそうな顔で俺を見つめている。初めてできた彼女は束縛するのが好きな女性みたいだ。もうダメだ意識が遠のいていく。

 

「大丈夫?助けに来たわよ?」

 薄れゆく意識の中、目に映ったのは裸に女性下着をつけた姉崎課長だった。

 

「どうしてここが?」

「あなたのことを心配して発信機をつけていおいたのよ?」

 

 どいつもこいつも、俺のまわりにはストーカーしかいないのかよ。

 

 

(この話はフィクションです。)

 

 

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