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言葉で人の心を動かす

【第25回】短編小説の集い 投稿作品 『シンクロン』

小説

 西暦2019年1月1日、世界中がハッピーニューイヤーを祝う中、WHOが全世界に向けて、新人類シンクロンの存在が発表された。

 

 遡ること2016年。医学誌で発表された袖狭大学研究チームの研究が全ての始まりだった。寄生虫トキソプラズマの感染により宿主の動物の記憶に障害が生じるという発表から始まった研究により、小児肥満症・拒食症・注意欠陥・多動性障害・自閉症スペクトラム障害・うつ病・双極性障害・統合失調症・パーキンソン病・アルツハイマー病・多発性硬化症などの病気を引き起こすことが証明された。

 

 感染した寄生虫トキソプラズマが脳へと移動し、脳の一部と同化することで、脳機能を変異させ、記憶の形成に必要なドーパミンや精神の安定に必要なセロトニンなどの神経伝達物質のバランスを崩す。それにより、あらゆる難病を発病させることが判明したのだが、その感染自体を確認するのが難しかった。これまでの検査で病気の原因を発見できなかったのは、脳と同化してしまうやっかいな性質のためであった。

 

 ここまでなら、病気の原因をつきとめたということで終わるのだが、その研究過程で一部の罹患者に他では見られない変化が発見された。それが異常に発達したコミュニケーション能力シンクロだ。共感力やエンパシーとも呼ばれていたその力は、全人口の3割が感染していると言われている寄生虫トキソプラズマ感染者の精神と同調することができたのだ。さらにそのシンクロを持つ者の中に、精神同調だけではなく精神操作まで発現する者が現れた。彼らこそが新人類シンクロンである。

 

 日本のベンチャー企業ジェミブロが開発したシンクロン判定キットによる検査により、世界中にシンクロンが約3,000人存在することが判明した。各国の首脳・大企業のトップ・アイドルなど各業界で活躍している者だけではなく、一般人にも多く存在していた。彼らの共通点は一つ。多才であること、そして、多くの人から好かれていることだった。彼らが好かれる本当の理由は、シンクロンの特徴である他者の精神支配能力によるものであったのだ。

 

 当初、この事実が発表された時、世界中の人々がシンクロンへの弾圧が始まるのではないかと危惧した。しかし、実際は何も起きなかった。新人類シンクロンは例外なく、難病というハンデを背負っていた。また、彼らは例外なく、社会貢献を積極的に行っていた。世間はシンクロンを新たな脅威ではなく、誰からも好かれる愛と平和の象徴として受け入れたのだ。

 

 世界は愛と平和の象徴として、シンクロンを有効活用することを望み、シンクロンたちもまたそれを望んだ。シンクロンは治安が安定している先進国に多く存在していたため、後進国を中心に世界中のあらゆる紛争地帯へと派遣されていった。

 

 そして、世界から争いが無くなった。

 

 世界に散らばったシンクロンたちは、その能力と性格から絶大な信頼を得ていた。いつしか主要国のリーダー全員が、人類から新人類シンクロンに置き換わっていた。人の痛みが分かるシンクロンが統治する国はまさに理想国家だった。争うことを忘れた人類は進化の道を失ったが、心の余裕ができた人々は他者を思いやるようになり、あらゆるものから自由になった。差別や偏見という概念が失われ、ノーマライゼーションが当たり前となっていた。また、多くの国でベーシックインカムが導入され、好きな時に遊び、好きな時に働けるようになっていた。人々は生きがいを仕事に求め、仕事を趣味として楽しむことができるようになっていった。意外なことだが、社会はそれほど堕落しなかったのだ。

 

 シンクロンが再構築した新世界には、嫉妬や妬みがなく、共有と尊重が全てだった。人類にとって目指すものは、シンクロンのような誰からも好かれる存在になることだった。この世界において、シンクロンは理想の人間像であり神であった。

 

 しかし、その平和もある男の『病気』で終わってしまう。自らもシンクロンであり、シンクロン判定キットを開発した元ジェミブロCEO、現日本国総理大臣である神代暁(かみしろ あかつき)の手によって。彼は寄生虫トキソプラズマの感染により発病した病気以外にも、もう一つの難病に罹患していた。薬や手術では治らない『病気』、『恋の病』である。

 

 シンクロンは組織に属してはならない。家族すら持ってはならない。シンクロンは象徴であり、人権はない。新人類は『新』人類であり、人類ではないからだ。新人類シンクロンは全ての人類のために存在しなければならず、特定の個人のために生きることは許されない。

 

 そのため、シンクロンである神代が一人の女性を愛することは許されなかった。そこで、神代は人類をシンクロンへ進化させる薬を発明することにした。しかし、半年もしない内に新薬開発は行き詰まる。シンクロンへの進化には、生まれ持った遺伝子構造が重要なファクターであることが判明したからだ。そこで、神代は人類を進化させるのではなく、シンクロンを人類へ戻す薬を開発することにした。その過程で寄生虫トキソプラズマの感染が原因で発病する病気の完全治療ができるようになった。世界中のシンクロンたちの協力もあり、シンクロンから人類に戻る薬の開発はわずか1年と驚異的なスピードで開発された。世界中のシンクロンたちは人類へ戻ることを宣言し、世界で同時に薬を飲んだ。

 

 世界から新人類が消えた。

 

 人類に戻った神代が、恋する女性に告白した。

 

「あなたのそばにいるために、俺は全てを失いました。こんな俺ですが付き合っていただけませんか?」

 

 彼女は物静かに答える。

 

「ごめんなさい。あなたの愛は重すぎます。私では受け止めきれないので、他の女性を当たってください。」

 

 愛はどんな病気よりも重い。

 

 

 ※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・病気とは関係ありません。 

 

⭐こちらの企画に参加してみました!初回参加です!

novelcluster.hatenablog.jp

 ※中の人 (id:zeromoon0)さんへ。言い訳となってしまいますが、まとまった時間が土日しか取れないため、字数が少なくてすみません。これがブロガーの限界です(笑)丸1日しか書く時間がなかっため粗が多いと思いますが、参加者の一人として数えいただければ嬉しいです。今度参加する時は、3日ぐらいはかけて書きますのでお許しを!

 

⭐ちなみに、この『短編小説の集い』ですが、人が集まらないため、やめてしまうかもしれないそうです。

novelcluster.hatenablog.jp

 

 たまたま、かんどー (id:keisolutions)さんとみどりの小野 (id:yutoma233)さんが、Twitterで『短編小説の集い』の閉鎖問題を取り上げていたのを読んで参加させてもらいました。お二人もたまには役に立つことをつぶやくんですよね(笑)

 

 多くの人に読んでもらいたいです。そして、多くの方に参加していただきたいです。俺は小説家ではなくブロガーですが、物書きの一人として『短編小説の集い』を応援します。みんなも協力してあげてくださいね!よろしく!