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ロゴスエモ

言葉で人の心を動かす

おでんが食べたくなるお話し

小説

住宅街から駅へ続く小道にある赤い提灯が目印の屋台のおでん屋。雪がちらつく寒空の下、おでん屋の店主アキラと常連客クマガイが会話をしている。

 

「そういえば、アキ兄(にい)は何でおでん屋を始めようと思ったの?」


「いや~、たいした理由じゃないですよ?そんなん聞いても面白くないですよ?」


「まあ、いいから聞かせてよ?」


「そうですね。あれは数年前の冬でした……。」

 

 

 

数年前の冬の夜~

おでん屋があった場所に座りこんでコンビニのおでんを食べているアキラ。

 

「隣り、座っていい?」
ショートヘアーの少女が膝に手をあて、のぞき込むようにアキラに問いかける。

 

「えっ?いいけど……。」


「私、リカと言います。お兄さんの名前は?」


「俺?俺はアキラだけど?」


「あのさ、いきなりなんだけど、お兄さんは彼女いるの?」


「いないよ。」


「私はいるよ。すっごいイケメンで、学校でもモテモテなんだよ!」


「はぁ……。」


「彼氏が他の女の子と付き合うんだって。」


「へぇ~。」


「反応薄いね?傷心の女の子を慰めてくれないの?」


「おでんは好き?」


「好きだよ?匂いにつられてお兄さんところへ来ちゃたの。」


「それじゃ、食べかけで良ければこのおでん全部あげるよ?」


「いいの?」


「俺にできるのはこれぐらいだけだからね。説得力にかけるけど、これから、もっといい男に会えるさ!」


「お兄さん、優し人だね。いつかお兄さんにもいい人見つかるよ!なんなら、私がお兄さんの彼女になってあげようか?」


「もしかして、俺、からかわれている?」


「どうだろうね?」


「俺みたいなデブを相手にしないで、イケメンな彼を探したら?」


「今度、またここで会ったら私と付き合おうよ?」


「いいの?俺、暇な大学生だから、いつでもここで待っているよ!」

 

 

 

~そして、現在。

 

「で?その女の子とは付き合ったの?」


「それがですね、あの後、会えなかったんですよ。」


「もしかして、アキ兄、その女の子を待つためにここでおでん屋をやっているの?」


「まあ、そんなところです。」


「ロマンチストだね?」


「へへ。まあ、結局、からかわれただけみたいですけどね?」

 

暖簾をくぐって女性が入ってくる。
「一人ですけど、いいですか?」


「いらっしゃい!どうぞ、どうぞ!ムサイおっさんしかいませんがどうぞ!」


「おい、俺はまだ、28だぞ?20代はおっさんじゃないだろ?」


「あれ、そうでしたっけ?てっきり、クマガイさん30だと思っていましたよ。」


「ひどいなぁ~。ねぇ、お嬢さん?」


「そうですね。フフッ。」


「お姉さん、とりあえず飲み物何にします?」

 

「ビールで!後、適当に見繕っていただけますか?」


隣の席を指差して、

「ここにマフラー置いてもいいですか?」


「どうぞ!この時間は他にお客さん来ないんで!」


「それじゃあ、俺のオススメで、玉子、大根、こんにゃくで!」


「全部、私が大好きな具だ!」


「お姉さんはこの辺の人なの?」


「昔はこの辺に住んでいたんですけど、親の転勤で引っ越したんです。今日、こっちに戻っきて、お腹が減ってコンビニに行く途中だったんです。そしたら、こちらのおでん屋さんが目に入って。」


「おでん好きなの?」


「はい!昔、この辺でおでんを食べていたお兄さんからおでんをかっさらったぐらいのおでん好きです!」


「アキ兄、もしかして、さっきの話の……。」


「えっ、なんですか?さっきの話って?」


「いや、なんでもないですよ。馬鹿な男のつまらん話です。」


「え~、気になる。」


「まあまあま、それよりも、もっと面白い話があってですね。ブログで知り合った女性に恋をした男が……。」

 

 

 

~1時間後

 

「お勘定お願いします!」


「あいよ!」


「ご馳走さまでした!」

立ち去る女性。


「ありがとうございました!」

 

「アキ兄、なんで、名乗らなかったの?絶対、さっきの子でしょ?」


「どうですかね?そうだとしても、あの頃と違って激ヤセした俺には気づいていないと思いますよ。」

 

「すみません。マフラー忘れちゃって。」

女性がマフラーを取り上げて首に巻く。

「アキラさん、ご馳走さまでした。また、来ますね♡」


「ありがとうございました!」

 

「アキ兄!今、彼女、アキラさんって言ったよ?俺たち一度もアキラって言っていないのに!」


「気のせいじゃないですか?」


「あれ~、もしかして照れている?」


「からかわないでくださいよ!」

 

それ以降、リカもクマガイと同じく常連客となる。リカは、クマガイと同じくほぼ毎日屋台にくる。アキラにとって、リカとの些細な会話のやり取りが幸せそのものだった。

 

 

 

~半年後

 

「こんばんは!」
クマガイがリカと一緒に暖簾をくぐる。


「あれ?クマガイさん、今日もリカさんと同じタイミング?」


「実はさ、今まで隠していたけど、俺たち付き合っているんだ。それでさ、恥ずかしい話、子供ができちゃってさ、結婚することになったんだ!」


「えっ?」


「アキ兄がおでんを仕込んでいる間、俺はリカに子種を仕込んでいたのさ!」


「やだ、恥ずかしい……。」


「おっ……、おめでとう……ございます……。」


「なんか横取りしたみたいで、言いづらかったんだけど、これでスッキリしたよ!ありがとう!」

 

その日を境にアキラのおでんが少しだけ、しょっぱくなった。