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ロゴスエモ

言葉で人の心を動かす

俺は面倒くさがり屋だ。おかげで後輩に香典を渡せない。

消されるな、この想い 忘れるな、我が痛み

俺は『面倒くさがり屋』だ。肉屋が肉を売るように、魚屋が魚を売るように、面倒くさがり屋だから毎日『面倒くさいこと』を売る。

 

『面倒くさいこと』を目の前に並べては、ため息をつく。机に肘ついて、この世の終わりみたいな顔でため息をつく。鼻から大きく吸って、丹田(たんでん)を意識しながら口からため息をはく。一見すると深呼吸みたいだが、ため息も進化を遂げるとこの域に達する。俺はその道のプロ(波紋使い)なのだ。そんなため息をついても、売れるわけがないので、とりあえず店先に並べてみる。どんなに綺麗に『面倒くさいこと』を並べても、やっぱり売れない。売れないどころか、毎日在庫が増えていく。増えるだけならまだいい。古いものからどんどん腐っていく。腐らせるわけにはいかないので、腐りやすいものからテキパキと売りさばいて行く。それでも、お客さんから、早く売ってくれと催促される。すぐに売れるものなら、とっくの昔に売っている。恐竜が絶滅する前に売っている。まあ、恐竜には売れないけどね。

 

俺は朝から猛スピードで売りさばいているからまだましだが、後輩はなぜだか売る気がない。それどころか売る必要のない『油』を他部署の同僚に売っている。ちなみに、彼の顧客は女性ばかり。長年付き合っている彼女がいるのに、油で女心をつかもうとしている。もちろん油なんでよく滑る。だから、つかめるはずもない。触れることもできない。触れるとしたら上司の逆鱗ぐらいなものだ。全くもって意味が分からん。目の前の『面倒くさいこと』を売らずに油を売ってるのだから。

 

俺たちにはノルマがある。定時までに売り切れなければ、残業タイムの始まりだ。例の後輩が定時までにノルマを達成できる訳がない。昼と同じペースでだらだらと残業する。なぜだか俺も残業している。なんだかんだ言っても俺は自分のノルマを夕方前に達成している。俺は『面倒くさいこと』を売り切っている。だからといって早く帰宅できるという訳ではない。空いた時間は、『もっと面倒くさいこと』を売ることになる。夕方から『もっと面倒くさいこと』を売り始めて定時までに売り切れるわけがない。だからといって、明日へ持ち越すと、明日のノルマと重なって身動きがとれなくなる。エナメル素材の衣装の女王様に縛られたのごとく動けなくなる。俺にはそんな趣味はないし、そんなことになるのは嫌だから残業する。

 

残業タイムが始まって1時間経った頃、先に上司が帰っていく。それを確認すると例の後輩はすぐに部屋から去っていく。30分後、コンビニの袋を持って帰ってくる。俺は無視して『もっと面倒くさいこと』を売り続けるのだが、後ろから食べ物の匂いがしてくる。そして、俺のお腹も「ぐぅー」と泣く。鳴るのではなく泣く。本来なら帰れる時間なのに帰れないから泣く。他の同僚は先に帰って行った。なんで定時前にノルマを達成した俺が残業して、定時ちょっと前になんとかノルマを終えた人が先に帰れるのだろう?俺はよく不器用だと言われる。ゴマもすらない。ゴマをするとしたら家でゴマダレをつくる時ぐらいだ。手作りのゴマダレは風味が効いて美味しいよ!一度フライパンで軽く炒ってからだとなおさらいい!

 

もちろん匂いの原因は、例の後輩が夕食を食べているのだ。たぶん後輩は後1時間は残業するのだろう。それなら我慢してやろうと俺は仏の心で我慢してやる。なんて俺は優しいのだろうか?そんなことを考えていると、後輩は夕食を終えると、またどこかへと消えて行った。定時から2時間経った頃、後輩が戻ってきた。他の課の残業している人に、「『面倒くさいこと』を仕入れてくる人たちに油を売ってきたこと」を自慢をしている。後輩はおよそ1時間残業タイムに何もしていない。いや、飯は食っているか?油も売っているな。しかし、『面倒くさいこと』は全く売っていない。

 

俺は2時間の残業申請を出して帰り支度を始める。なぜだか、後輩も帰り支度を始めだす。なんでかな?上司が帰ってから一切『面倒くさいこと』を売っていないはずなのに。俺が『残業申請』を上司の机に置くと、後輩も申請を置く。『さぼりました申請』ではなく『残業申請』をだ。なんでかな?なんでだろう?後輩が部屋を出た後、申請書を覗いてみると、俺と同じ2時間で『残業申請』を出している。

 

香典を出してあげたくなるね(笑)!俺の半分しか仕事していないのに同じ給料をもらおうとしているんだよ。半殺し決定だね(笑)!でもどうしようか、半分殺すとしても右半身か左半身か、さあ、どっち?どっちも半分以上削っちゃいそうで難しそうだ。特に鼻が難しそうだ。それでは、上半身か下半身のどちらかにしよう。下半身を削れば後輩の彼女に恨まれそうだ。それは困る。ここは上半身にしておこう!後輩の顔は元々殴られたような顔なんで俺が殴ってもそんなに変わらないだろう。よし、殴ろう!でも、後輩はもう会社を後にしている。「Yah Yah Yah!今からこれから彼の家に行って殴りに行こうか?」と思うのだが、俺も疲れているし『面倒くさい』ので結局そのまま帰る。

 

俺は後輩の1.5倍いや、2倍は仕事をしている。それなのに給料はほとんど同じ。もしかしたら安いかもしれない。俺は人があふれている時に会社に入れてもらった。後輩は人が足りない時に会社に入ってもらった。この差は基本給に出てくる。もちろん、基本給を元に残業代を計算するので残業代にも差がつく。上司は残業時間の後輩を見ていない。申請上は俺と同じ仕事をしたことになっている。他の課の人はこの事実を知っているのだが、報告しない。なぜなら、彼らも同類だから。

 

世の中は本当に理不尽だ。俺が『面倒くさがり屋』でなければ、後輩は今頃、千の風になっているんじゃあないかな?そんな後輩が今度、結婚するらしい。俺より先に結婚するんだってさ。正直者が馬鹿を見るというが、本当に腹が立つ。いつか俺が出世して後輩の上司になったら、厳しく愛情あふれた指導をしてあげよう。飴と鞭をうまく使い分けてあげよう。ただ、俺は人を育てることになれていないので、しばらくは鞭、鞭、鞭と鞭ばかりだろうな。これは仕方がない。あれ、また女王様のお出ましだ。残業に女王様は付き物なのかな?

 

残業は体だけでなく心も疲弊させる。女王様にぶたれるのは嫌いだが、女王様の格好をした女性はセクシーで好きだな!やっぱり俺は疲れている。ちなみに俺はただの事務職ですから。セクシーな女性が好きな独身男ですから。

 

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